ポストイットとラインマーカー

わなび学生による漫画、アニメ、日常中心の覚書ブログ。短歌も1日1首載せています

11/30(土)痛……痛い……

  • 裏庭に
  • 萩の御花が
  • 咲いたから
  • 今日の別れは
  • 「さようなら」です
 
 
 
 11月の最後が、12月の始まりが差し迫った本日。今年一年を予行演習的に振り返ると、本当に早く過ぎ去って行ったと感じる。
 
新しい環境、色々な人との出会い、別れ。一つ一つは泥臭いものばかりだったけれど、遠くから眺めるとどれも美しく見える。そういうところ、人の心は単純だ
 
よく考えてみれば今までの1年もそうだっな。こうして、来年からの私も1日を過ごして行くのだろうか。その日々が、少なくとも振り返った時点では美しいものである事を願いたい
 
 
 
 さて、今日紹介するのは、谷川史子氏による、「一緒にいることの出来ない2人の別れ」をテーマにした短編集。リボンマスコットコミックス クッキーの『吐息と稲妻』だ

 

吐息と稲妻 (りぼんマスコットコミックス クッキー)

吐息と稲妻 (りぼんマスコットコミックス クッキー)

 

 

 

収録されている作品は計7篇。それぞれの簡単な前振りも付けて紹介すると、下のようになる
 
・吐息と稲妻
彼氏の沢野と女子大生紗絵は幸せなカップル。しかし、見知らぬ男性に命を救われた紗絵の過去が、2人を引き裂く事になる
・星空スイマー
海外へ転校する幼馴染、光に突然告白されるけれど、自分の気持ちが定まらない男子高校生望。別れの時は刻一刻と差し迫り
雪の女王
千英は幼馴染の篤にずっと片想いしている。でも、篤には「雪の女王」そっくりの歳上の彼女がいて
・ニジメガネ
女子高生の弓は母子家庭の一人娘。父に会いたい気持ちを募らせていた。そんなある日、芸術家である彼女の父が地元に帰ってくる
・春追い
母代わりでもあった姉葉月は婚約が決まっている。しかし、妹の五月は色々納得出来ないことがあって、咄嗟に姉の婚約指輪を持って家出してしまう
・告白物語エスパー史(後書き)
『ごきげんな日々』の後書きに続く後書き
 
 
 谷川史子氏と言えば『りぼん』の大御所も大御所。名前は知らずとも、私と同じ90年代生まれまでならば人生で一度はその画を拝見した事があるのではないか。
 
と言いつつ私も少女漫画を本格的に読み始めたのは大学に入ってからなのだけど……そう思っていたら本家さんのまとめがきちんとあった
 
やはり谷川史子氏入ってる。『王子様といっしょ!』はタイトルだけ知っているな。わあ、『アニマル横丁』とか懐かしい……種村有菜氏は『神風怪盗ジャンヌ』よりも『桜姫華伝』のイメージが強い感じ。
 
 
 どうでもいい事だけど昔のタイトルを眺めていると、やはり一部の少女漫画が少女少女したデザインを捨てて自由に装丁されるようになったのは、それだけで目覚ましい変化なのだなあ。
 
この変化によって少女漫画はより万人に開かれ、洗練されたものに変わった気がする。一方で、性的表現の意味ではなく、内容が少し高年齢化し過ぎな嫌いもあるのが問題でもあるのだけれど……おお脱線脱線
 
まあ兎に角、そんな偉大な作家さんの短編集である。ハズレである訳がなかった
 
 
 収録されている作品の中で私が一番好きなのは、「雪の女王」。
 
結局主人公の千英は暴走して想いを打ち明けた挙句、高熱で倒れてしまう。そこに、気まずい篤が見舞いに来て、謝罪とともに自分に出来ることを尋ねると千英はキスを要求。篤は幼馴染として自分が千英を大切に思っていたことを告げ、額にキスする。で、「また明日」と別れたその後のシーン
 
「痛……痛い……」
この氷のかけらは 今は誰にもとかせない
あなたに会うたびに くりかえしときめいては 私を傷つけるんだろう
こんなにしんどいのに いいや なんて思えるのはどうしてなんだろう
 
 
 ああ、上手い。近くにいながらの「別れ」を綺麗に描ける作家さんて素敵だと心から思う
 
ボンヤリとした2人が1人と1人になる時。ここを切り取って上手く作品に出来ているからこそ、千英にも篤にも幸せになって欲しいと心から願えるのだ
 
台詞に『雪の女王』のストーリーを掛けているのもロマンチック。いや、タイトルからして当たり前なんだけど、谷川史子氏の絵と一体となると、これが何とも言えないんだなあ。久保ミツロウ氏が『アゲイン‼』の後書きで「谷川史子さんのキャラをドロドロさせたい」みたいに仰ってたけど分かる気がする
 
 
 
 これから、寂しい冬が来るけれど、明るい気持ちでその寂しさを受け入れるためにも、私は本作を読むことをお勧めする。さあ、皆で谷川史子氏の世界に存分に浸ろう!