12/13(金)さばの骨
- 透き通る
- 群青色の
- 水盆に
- 吹き散らされた
- くもの子は今
風の強い日だった。
追い立てられるように落ち葉が道路を走っていた。あるものはつむじ風に乗って回りながら、あるものは転げ続けながらからからと。
その黄色い色がアスファルトを変えるのを眺めながら、私は大学に行った
いつも通りの近道の小道を抜け、ふと上を見る。
雲一つ無い真っ青な空。あまりにも青過ぎて呆気ないくらいだ。現実味のなさが、Windowsの古いホーム画面に似ている。
零戦もこんな空を飛んだのかしら。そう思った
奇しくも本日、『風立ちぬ』が第71回ゴールデングローブ賞の外国語映画賞部門にノミネートされた。
GG賞ノミネーションが発表!『風立ちぬ』が邦画として23年ぶりのノミネート!【第71回ゴールデン・グローブ賞】 - シネマトゥデイ
『風立ちぬ』と言えば、先日引退を告げた宮崎駿監督の最後の(予定の)作品である。
ベネチア国際映画賞受賞を逃したニュースが東京のオリンピック開催地への決定と「お・も・て・な・し」の影に霞み、鈴木敏夫氏も苦しかろうと思っていたが、再びビッグウェーブか
あの映画に関して、世間の評価はかなり分かれたと聞く。
周囲では、「冗長で駄作、監督の名前が無ければ面白くなかったと」いう意見と、「尊く業の深い、芸術家にとっての最終テーマを素晴らしく描ききった大作だ」という意見に分かれた。
敢えて失礼な言い方をすると、前者は「アニメはよく動いて声優とキャラが可愛けりゃ良いんだよ系消費萌え豚」が多く、後者は「私は芸術が分かってるんだ系のワナビー」が多かったな
私はと言えば、正直に感想を申し上げると、駄作とも、名作とも感じた。それは私自身がどちらの立場でもあるからだと思う
はっきり申し上げて、本作の飛行機作りに至るまでの前半部分の冗長さには、これまで観た映画の中で『スカイクロラ』に次ぐ退屈さを感じ、開始5分で劇場に足を運んだ事を後悔した。ヒロインの里見菜穂子は、私からは主人公堀越二郎を後半で引き立てるためだけに生かされていた作品にとっての添え物に見えて、痛々しかった。
CMやポスターから生み出された世界観との乖離にもかなり失望した。関東大震災が、なんだか物語的に非常に重要な、戦争による爆撃にでも見える作り。これが、「広告が作品を作り変えるか」という事で、その手腕に驚きこそすれ、感心はしなかった。連日流れるTVCMに、お金とブランドは大切だなあ、と素朴に思ったりもした
ただ、そんな酷評をしておきながらフォローになるか分からないが、少なくとも宮崎監督の飛行機への惜しみない愛と、監督がこの作品を心のままに作っているのだろうということはヒシヒシ伝わってきた。
飛行機作りという二郎の「美しい夢」はさばの骨とともに飛び立ち、国民の疲弊、愛する妻の喪失、戦争への飛行機の兵器利用、様々な対価を払った上で、無残にも全て墜落する。しかしそれでも、二郎が夢想し挑む、監督の描く飛行機は迫力を持って、「美しい夢」である事を失わず我々に突きつけ続ける。
だからこそ、夢を捨て流され、傷つき倒れ、打ち捨てられて行く事がデフォルトの現代で、古臭くて鼻をつままないと触る事も出来ない「生きねば。」の言葉は「生き」てくる。全く、「スタジオジブリ」と「宮崎駿」のブランドでカバーしなければ駄作の部分も相当あるように思えるのに、それでもこの作品は私にとって『王立宇宙軍 オネアミスの翼』以来の心揺さぶられる作品ではあった。よく考えると、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』も監督の後押しがあったから実現したと聞くし、案外共通項は多いのかもしれない
今回のノミネートが受賞につながるか否か、私には全く分からない。
ただ、「スタジオジブリ」や「宮崎駿」の名前を抜きにして、本作は本作を観た各々の何かを刺激し揺さぶるだけのパンチ力を持つと、私は信じる
この賞がより多くの人々のもとに本作を届ける追い風となるならば、是非受賞して欲しいなと思う。
そう言えば、購読しているブログの方々が何人か触れていらしたけれど、現在高畑勲監督の『かぐや姫』が公開しているはずだ。そろそろ観に行こうかな