ポストイットとラインマーカー

わなび学生による漫画、アニメ、日常中心の覚書ブログ。短歌も1日1首載せています

12/6(金)1mmひらけばそこから光が射し込んでくる。

  • はれひらと
  • 水平線を
  • 泳いでく
  • 酔いどれ者の
  • 轢き潰れた影
 
 
 
 正直に告白するが、私は和歌を勉強した事が一度も無い。勉強している友達もいない
芭蕉」というHNも本当に偶然知り合いから付けられたもので、実は歌と何の関連も無い。
身内で和歌をやっている人間を挙げても、祖母が趣味で短歌作りをしているくらいだ
 
思い出せる和歌と触れ合った経験と言えば、「お〜いお茶」向けに無理矢理俳句を作らされた小学生の頃
建設中の高速道路を見学しながら、ふと目についた雨上がりの景色を詠んだのを覚えている
これが偶然佳作を取れて単純な私は確かに喜んだ。だが、所詮佳作だしそこから和歌作りに向かう気力は生まれなかった
 
その後中2病を患い、承認欲求と自己表現欲を言語にぶつけるようになって、小説やキャッチコピーに興味を持っても、その熱意が和歌に向く事は相変わらずなかった
 
 
 転機が訪れたのは大学生。
当時好きだった人から穂村弘氏の『世界音痴』を貸してもらってこの歌に出会った

 

世界音痴 (小学館文庫)

世界音痴 (小学館文庫)

 

 

サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい
 
訳の分からない、パンを丸呑みする人の歌は私の心を鷲掴みにした。
何だこの人、遠くを連想してサバンナまでは分かる。しかし、そこで象のうんこを持ってくるとは……
小さな「私」の小さな独白と対比して遠くの、大きなものを持ってくるという技巧力、そしてそこに象のうんこを使うめちゃくちゃな感性に私は酔いしれた
 
穂村氏の作品では、エッセイも決して短歌の添え物ではない。いつも「私は世界とずれています」と同じような事を書いている癖に、不思議と読みたくなる文章を書いてくる
私のような「1人の寂しさを感じながら、その寂しさに変なプライドを持っている」人間が何を書いたら喜ぶかをよく分かっているのがありありと見えて、むかつく人だなあと思いながらずぶずぶと私ははまった
元々、簡潔な言語表現を好む気質もあっていたのだろう。気がついたら、氏の作品を進んで購入するようになっていた
 
 
 就職活動を終え、色々あって疲れた心を休めるために私はこのブログを始めた。
ブログを始める時も、やはり氏の作品は大きな影響を与えた。そう、このブログのタイトル「ポストイットとラインマーカー」は氏の『ラインマーカーズ』から名前を勝手に貰ってつけたのだ

 

ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi

ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi

 

 

最初は自分の生活にラインを引くような日記をつけるつもりだったのが本の感想など色々好き勝手に書くようになり、遂には恥を忍んで毎日一首短歌を作って載せるようになり、今に至る
 
短歌を載せるのは流石に躊躇った。だってそこまでやってしまったら、完全に「見た目しか真似られないパクリ」じゃないか
しかし、確かに私は氏に憧れている。自分の体験やずれを活かして、誰かを感動させられる人間になりたいと思っている
だからこそ勇気を出して、「パクリ」をすることにした
 
 
 そして先ほど、パソコンの画面の前でこの前買った『短歌という爆弾ー今すぐ歌人になりたいあなたのためにー』を読み終えた

 

短歌定型が武器になることに気がついたのは23歳のときだった。たわいない思いつきを五七五七七の音数に当てはめるだけで、それは全く別の何かに変わる。もしも才能があれば、世界を一瞬で覆すことができる。そうでなくとも、世界の扉を1mmあけることができる。まったく動かせないのと、1mm動かせるのは大違いだ。壁と扉は大違いだ。1mmひらけばそこから光が射し込んでくる。(p.295L15~p.296L4)

これは穂村氏が同作の「あとがき」に載せた言葉

 

 私は、穂村氏がその武器の存在に気がついた年齢よりも、今少し若い年齢だ。残念ながら氏と違って才能は無い。ただ、氏の言う「武器」の意味は分かる。
私は私の孤独な部屋のドアをちょっとばかし開けたかったのである。ブログだって短歌だってそうだ。鎖につながれる洞窟から出でて松明の光よりも眩しい、目の眩むような陽の光に少しでも触れたい。そう願って筆を取ったのだった
 
ブログで好き勝手に思いのたけをぶちまけて文章を書くのは爽快だし、それを誰かに読んでもらえるのは確かに嬉しい
けれども、いい加減きちんと勉強して、進んで読みたいと思ってもらえる文章を作ることが必要かもしれない。
そのためにはどうしたって同じ趣味を持つ人たちと研鑽し、己を磨く経験が必要だ
 
就職前であまり自由な時間は残されていないけれど。後ろ向きでもいいから、同志を探そうかな。
初めておもい腰を上げようと思った、冬の寒い夜だった